「全国民は当事者意識を持て」環境省の新・汚染土WG

 2024年1月17日、環境省が設置した新たなワーキンググループ(WG)の第一回目が開催されました。本WGは「中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略検討会」(親会議)の下に置かれた5つのWGを総括する形で設置されたもので、6つめのWGとなります。

 設置の目的はその名称のとおりです。
 「中間貯蔵施設における除去土壌等の再生利用及び最終処分に係る地域の社会的受容性の確保方策等検討ワーキンググループ」(略称 地域WG)
 除去土壌等の再生利用及び最終処分に係る地域社会における社会的受容性の向上のため、地域とのコミュニケーションや地域共生のあり方等について検討を行うため

 以下、委員名簿









資料1より




 大迫委員(国立環境研)は、最終処分と再生利用のフェーズの違いに触れつつ、再生利用はすでに実施段階と発言しました。

 これを受けて、佐藤委員(北海道大学大学院)は、再生利用は早くやらないと、という思いがあるが、(国民理解醸成の)プロセスが大事なので、前のめりになるのをこらえてプロセスを大事にしないとならないとコメント。

資料2  

                濃度の「低さ」を強調したイメージづくり?

 保高委員(産総研)からは、再生利用できなかったものは最終処分へ回るが、その際には減容化が不可逆であり、再生利用先が決まってから減容化するか、あるいは先に減容化をやってしまうのかでコストが変わってくるとの質問がありました。

 これに対し環境省は、減容化の手法についてはきちんと示したい、タイミングについてはまだ決まっていない、とはぐらかしたような答弁でした。コストはもっとも大きな問題の一つですが、国民への説明はほとんどなされていません。国は都合の良いことのみを「理解」させようとしているのではないか、と思えてなりません。

資料3 

 泊委員(東北工業大学)は、最終処分と再生利用という2つの「事業」という概念について質問がありました。最終処分はそれ自体が目的の事業であり、再生利用は公共事業等での利用という事業である。再生利用の場合、それが目的ではなく、道路や防潮堤などを造るという事業が主体としてあり、そこで汚染土を用いることができる、という話なのではないか。そうなると、手続きの中で自治体等に公共事業でどう利用してもらえるのか、という位置づけになってくるのでは。

 これに対し、環境省は肯定しつつ、自治体の公共事業の担当者と連携しコミュニケーションを取りながらやっていくという再生利用特有の話だとしました。

 その上で、中野参事官から補足説明がありました。最終処分は環境省が事業者となって責任を持ってやっていくが、再生利用は除去土壌を使う、つまり処分するという方法の一つに再生利用がある、これは、公共事業を行う事業者があり、それぞれ環境省と公共事業者が再生利用にあたってどういう責任分担をしていくか、再生利用WGでも議論を進めているところである。環境省は「処分の責任」を負うが、長期的な管理の実施体制が必要である。


 ⇒ここが、再生利用のカラクリです。環境省は処分の采配は振るが、汚染土の管理はその利用者に任せる。「責任分担」としつつ自らの責任を放棄し他者へ転嫁しようとしています。避難指示区域内の災害がれき等(対策地域内廃棄物)処分を産業廃棄物業者に丸投げしていたのと同じ手法です。もし災害で汚染土が流出することがあっても、「管理者」の責任とされるでしょう。

 崎田委員から、高レベル廃棄物地層処分の地域対話の実施にこぎ着けるまでに20年かかったので、再生利用は早く、最終処分はゆっくり進めるなど、丁寧な国民理解醸成のプロセスを進めつつスピード感を持つようにとのやんわりとした注文がありました。

 保高委員から、リニアの地域合意形成に関わっている経験から、どのような理解醸成を進めるのかのフレームを決めてからプロセスを示すことが重要、との指摘がありましたが、環境省は曖昧な返答をしたようでした。

 大迫委員は、全国民が当事者意識を持つことが重要と指摘しました。(汚染土の処分は)国民の社会的責任として、どういうステークホルダーがどう責任を持つのか、これまでは「国の責任だろ」みたいに、合意形成は国がやってもらって、それを受け入れるかどうかは地域の判断次第というような形であったが、国民の持つべき責任論を環境省は掲げるべきだ。責任を果たすという意味で、地域で(汚染土を)受け入れる人達の負担と、そうじゃない人達の負担のシェアをどうするか、そうじゃない人達は、じゃあコストとして負担しましょうとすれば、当事者意識につながっていく。責任論とどう負担していくかについて、整理がいずれ必要になる。

 社会がどのような意識を持っているか、コミュニケーション推進チーム(CT)でアンケート調査をしてきたので、国民の意識のモニタリングの仕方も併せて議論して、国民がどういう意識レベルにあるのか、どういう意見持っているのか、地域的な年齢間の差も見える化していく。また、地域合意形成の中で、声の強い人が地域を代表しているような形で見えてしまうケースが多いが、「全体的な責任を果たさなきゃ」と思う人もいるので、そのようなサイレントマジョリティのポジティブな意見の見える化も必要である。

 ⇒責任の主体を国民に転嫁する、主客転倒な主張です。「全国民的な理解」とは、「全国民的な責任(分担)」のことである、との意図があるのでしょうか。

 佐藤委員は、環境省は社会的受容性についてアイデアを出してほしいと提案。インセンティブを作ることが重要で、これは役所にしかできないことで、例えば道路を造るには除去土壌を使わなくてもできるわけで、その中で除去土壌を使うとどのようないいことがあるのか、協力したいという気持ちに応えるのもインセンティブである。なぜこのようなことを挙げるかといえば、対話フォーラムの中で「除去土壌を使うと何かいいことあるの?」という意見が出たからだ。

 環境省は、カーボンニュートラルの分野で、残用カーボンをクレジットとして買った分を、除去土壌を受け入れた自治体に付与するなど、新たな価値観、アイデアが必要だ。山からの土はCO2が出るが、除去土壌はあるものなので、CO2が出ないとカウントすればいい。

 ⇒CO2を出しまくって除染し発生した汚染土が、CO2が出ないとは都合が良すぎます。汚染土を扱うすべての工程でCO2は当然出続けます。

 制度作りではフィンランドに学ぶ必要がある。事業を規制する側の人達への、地域住民の信用度が90%超と非常に高いことが上げられる。環境省では原子力規制委員会になるわけだが、実施する側と、規制する側の関係が見える化されると国民は安心、議論が信用できるとなる。

 ⇒原子力規制委員会が何の規制の役割も果たしておらず信用に値しないことは明らかです。

 親会議の戦略検討会が2015年に始まり今年で9年目。これだけの時間と人手と費用、労力をかけながら、国会審議に諮らず閣議決定で省令改正しようとしていることがまったく問題とされず、メディアも取り上げません。前例のない世界発の一大ナショナルプロジェクトと、それへの全国民的な理解醸成を求めるのなら、国民を巻き込んで国会での議論を進めるべきです。

  参考資料1 「中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略 戦略目標の達成に向けた見直し」(平成31年(2019年)3月 環境省) 




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